特定技能1号の産休・育休はどう変わった?― 2025年9月30日改訂をふまえた実務ガイド
2025年9月30日、通算在留期間の扱いに関する大きな見直しが行われ、特定技能1号で就労できない一定の休業期間が、要件を満たす場合に通算5年から除外できるようになりました。対象には産前産後休業・育児休業、病気・怪我による休業、そしてコロナ関連で再入国できなかった期間などが明記されています。さらに、特定技能2号評価試験に不合格だった場合の例外的な「6年」(5年超)在留の申立て枠も設けられています。これらは申請に際して疎明資料の提出と「相当の理由」の認定が前提です。
加えて、同日に**「特定技能外国人受入れに関する運用要領」**も改正され、提出様式や確認表が更新されました。手続書類の最新版を事前に確認して準備を進めることが重要です。
https://www.moj.go.jp/isa/10_00233.html
1. 妊娠したと言われたら?
差別・不利益取扱いの禁止は従来どおりです。妊娠・出産・休業を理由に解雇や契約打切り、配置・昇進での不利益を与えることは許されません。まずは面談で健康状態・通勤・勤務内容を把握し、軽易業務への転換や休憩・シフト調整などの配慮を検討します(労基法上の妊産婦保護)。在留資格は原則そのまま特定技能1号のままで取得可能で、妊娠を理由に直ちに資格変更が必要になるわけではありません。ポイントは、在留満了時期と休業計画を早期に擦り合わせ、のちの通算除外申立てや更新申請に備えた書類(休業証明、在職証明、母子手帳の該当ページ控え等)を整えておくことです。この準備が、今回の通算除外制度を活かす分かれ目になります。
2. 産休(産前・産後休業)について
産前休業は出産予定日の6週間前から(多胎は14週間前)、産後休業は出産後8週間が原則です(労基法)。賃金の全額支払い義務は法律上ありませんが、健康保険の出産手当金などで一定の補填があり得ます。ここまでは基本に変わりありません。
今回の改訂の要諦は、産前産後休業期間を通算在留期間5年に「含めない」申立てができるようになったこと。申立てには疎明資料が必要で、自動適用ではありません。産前・産後の休業開始日・終了日を明確化し、会社発行の休業証明書や出勤簿、母子手帳の写し等、期間を客観的に示す記録を整えましょう。
3. 育児休業(育休)について
育児・介護休業法により、子が**1歳(最長2歳まで延長可)**になるまで育休取得が可能で、育児休業給付金(雇用保険)の対象となる場合もあります。雇用関係は存続し、復職前提の休業です。
改訂後はここもポイントが変わりました。 育児休業期間も、要件を満たせば通算在留期間から除外できる道が開かれました。これにより、従来は「休むほど5年を消費してしまう」という不利が緩和され、安心して出産・育児とキャリア継続を両立しやすくなっています。もちろん申立て制で、休業証明書や給付金受給に関する書類など、期間と実体を示す疎明資料の提出が鍵です。
4. 育児休業中のビザ(在留資格)の扱い
休業中でも、在留資格(特定技能1号)は通常維持されます。改訂により、通算の扱いが柔軟化したことで、休業=在留消費の一律構図が緩みました。もっとも、更新審査では雇用継続の実体(在職・復職予定)や生活基盤、法令遵守状況などの説明が求められるため、書面の整備は引き続き重要です。
5. 通算年数の改訂(一番大きな変更点)
5-1. 何が変わったのか(総括)
改訂で新たに、「特定技能1号の通算5年に算入しない」として申立て可能な期間が明示されました。主に
- 産前産後休業・育児休業
- 病気・怪我による休業(原則1年、労災は上限が延びる運用あり)
- コロナ関連で再入国できなかった期間 が該当します(要件・資料・入管の判断前提)。
5-2. 例外の「6年」について
また、特定技能2号評価試験に不合格等の事情がある1号在留者に対し、例外的に通算6年までの在留を認める申立て枠が設けられました(原則は5年のまま)。こちらも自動ではなく、事情を示す資料と**「相当の理由」**の認定が必要です。1年延長のイメージで、2号への移行準備を後押しする位置づけです。(介護は除外)
5-3. 実務への落とし込み
- 除外申立ての設計:妊娠が分かった段階から、休業計画と在留計画を一体設計。いつ休むか、いつ更新か、どの証拠を残すかを前倒しで固める。
- 書証の品質:休業証明、出勤簿、母子手帳写し、医師診断書、給付金通知など、発行主体・日付・対象期間が明確な資料を優先。
- 否認リスクの想定:入管の判断で除外が認められない可能性もある。否認時でも在留が途切れないよう、**保険線(通常の5年消費前提のスケジュール)**を並行して用意。
まとめ:ライフイベントとキャリアの“両立”を後押しする改訂
9月30日の改訂は、特定技能1号にとって長年のネックだった「休業するとその分5年が減る」という不利を、申立てにより公平に調整できる道を開きました。妊娠・出産・育児、病気や労災といった「働けない」期間を適切に除外できれば、日本での就労継続の選択肢は確実に広がります。
一方で、仕組みは自動適用ではないため、疎明資料の整備と更新・申立ての段取りが生命線。企業側は就業規則・社内フローの整備、本人側は記録の保存と早めの相談を徹底しましょう。手続の入口(様式・確認表)は9月30日改定版を使うのが安全です。
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